読み飛ばし読書備忘録⑨ それぞれの「現場」で抑圧してくるものに対して知的に闘っていくための指南書

読み飛ばし読書備忘録⑨

『呪いの言葉の解き方』(上西充子・晶文社・2019年・1600円+税)

 

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「呪いの言葉」という表現はしてこなかったが、若いころからこれに類するものには幾度もぶち当たってきた。

 

「お前はこの仕事、自分で選んだのだろう。だったらぐたぐた文句を言うなよ。文句を言うならやめてしまえ」

 

 

こういう言葉を若いころ、何度も投げつけられた。反論にもならない反論を繰り返したが、「辞めたい」とは思っていたが「辞める」とは言わなかった。

 

相手の思考を停止させ、反論のできない状況に追い込むのが「呪いの言葉」だ。

 

何度も「呪いの言葉」をかけられてくると、「ああ、そうか。これは議論ではなくて、黙らせるための言葉なんだな」ということが分かってくる。

 

親と話をしていて、まあそれなりに子どもが生意気な口をきくと、親は

 

「自分で稼げるようになってから言え」

 

これは、教員が生徒に云うのも同じ。

 

「権利を主張するなら大人になってちゃんと義務を果たしてから主張しろ」

 

というもの。

 

すぐには大人になんかなれないのだから、隠されたメッセージは

 

「黙れ!」

 

上西さんは内田樹さんの次の言葉を引いている。

 

『人が「答えのない問い」を差し向けるのは、相手を「『ここ』から逃げ出せないようにするため」である。』

 

その通りだと思う。

 

 

上西さんは、幾つも「呪いを解く」ノウハウを紹介している。そしてその意味を

 

「もちろん気持ちの上で呪縛から距離を置くことができても、現実に自由の身になれるわけではない。けれども、まずは自分が相手の「呪いの言葉」の呪縛の中に押し込められ、出口のない息苦しさの中でもがいている、その状態を精神的に脱することが必要だ」

 

という。

 

本書では、第2章 労働をめぐる呪いの言葉

     第3章 ジェンダーをめぐる呪いの言葉

     第4章 政治をめぐる呪いの言葉

 

と書き進められる。

ドラマやコミックを引き合いに出して展開する持論はとっても軽快でおもしろい。

「逃げ恥」など、私は見ていなかったからTSUTAYAで借りてこようと思ったほどだ。

映画『サンドラの週末』(2014年・ベルギー・監督ダルデンヌ兄弟)は私も好きな映画だが、もう一度じっくり見た気分になった。

 

そして私がいちばん興味深く読んだのは、上西さんがこの間の働き方法案に関して、徐々に「活動家」風に変貌していくその過程だ。

 

実際の政治の場のおかしさを身をもって感じ取り、そこでへこみながらもしぶとく対抗して社会運動のノウハウを仲間とともに見つけていく姿がとってもかっこいいと思った。

 

処世術を身に着け終わった大人は別として、職場や家庭、はたまた彼氏彼女との間で忸怩たる思いで沈黙をしてしまう若者にぜひ読んでほしい本。二度三度と開きたくなること請け合いだ。