退院してからほとんど外出していない。
自宅静養というのだろうか。外に出るのは朝夕の散歩ぐらい。
暑いせいもあって、よく眠る。
10日、退院後初めての診察。
切り取った患部の病理検査の結果がわかる。
この検査の結果によっては、これからの生活が根本的に変わらざるを得ない。
少し緊張して出かける。Mさんもいっしょ。
2週間ぶりの病院。どこか懐かしい気もする。何度も足を運んだ院内のコンビニは特に。
土曜日のせいか、込んでいる。廊下で待っている患者の人たち数人、眠っている人が多い。
診察予約時間から45分遅延の表示。時間は13時をとうに過ぎている。
窓口で遅延に苦情を言い立てている人。
厳しい口調で受付の女性に、予約時間が決まっているのになぜいつもこんなに遅れるのか、と。仕方ないのになあと思いながら見ていると、目が合ってしまう。
電光掲示板に番号が表示される。中待合に入れという指示。
中待合にも電光掲示板。
番号が点滅。ようやく診察に入る。
Yドクター、破顔一笑して「お待たせして申し訳ありません」。尊大とは真逆の対応にいつもながら感服する。診察は9時からずっと続いているのに。
画像をパソコンに映し出しながら丁寧に説明される。一つひとつ区切って、その都度「ここまでよろしいですか。奥様もよろしいですか」。
結論。暫定的な病名であった「早期胃がんの疑い」が「早期胃がん」に。
1か月後に再度内視鏡検査を行って、手術でできた潰瘍の回復具合いを見るという。
東京に住む従妹に、長い間がん治療に携わってきた看護師がいる。
長い現場経験を踏まえて現在は大学で教鞭をとっている。
彼女に、何人もの友人のがん相談の仲立ちをしてきた。
今回初めて自分の「がん」の相談をした。
「内視鏡によるESD手術の3時間というのは長い。5㌢四方大の患部というのも大きい。
病理検査の結果次第」と言われていた。
それが杞憂だったということになる。
それにしても、何の自覚症状もないがんは、恐ろしい。
今回、かかりつけ医のY医師が、「一度、内視鏡検査を受けて見られたらどうですか」という言葉に、若干たじろいだ。がんが恐ろしいからではない。検査がいやだからだ。
自覚症状がまったくない。健康診断のバリウム検査も気持ち悪いからと15,6年受けていない。内視鏡を体に入れるなんて想像したこともない。脳ドッグのMRIだって検査続行不能だった。内視鏡も途中でパニックになったらどうしよう、そんなことを考えると「わかりました。やってみます」とは簡単には言えなかった。
Y医師の、根拠ある穏やかな説得を受け入れ、検査を受けた。5月のことだ。
寝ている間に終わった。
それから、検査、手術、検査と合計4回も内視鏡を体に入れている。来月もするから5回、ひと月に1回の計算になる。
医療器具とその扱いの技能の発達には著しいものがある。
私の友人のMさんは、10数年前、内視鏡検査は七転八倒の苦しみだったという。
今では経鼻検査も含めて、内視鏡上部検査の患者の負担は大きく軽減されている。
もちろん下部検査もだそうだ。
おかげで、ビビりの私も、事なきを得た。いまのところだが。
家族や友人らにずいぶんと心配をかけた。わざわざ病院にまで見舞ってくれた人たちには言葉もない。
勿怪の幸いという言葉がある。
がんは、実はふたつめ。
"仏の顔も三度撫ずれば肚が立つ”のことわざどおり、神も仏も、三度目はマジに「肚を立てる」かもしれない。自重の秋(とき)である。
病室の窓から見えた夏空