内視鏡検査(胃)の話…眠っているうちに

5月10日

 ひとりでの生活が3日目になる。

 

 らいが早朝から散歩に連れて行けとケージの中からくうんくうんと鼻を鳴らしている。

 

 いつもなら二人の朝食後にいっしょに散歩に出かけるのだが、今日は朝食抜き。することもないので、いつもより1時間半も早く、5時ごろ出かける。

 気温14度。風なし、湿気なし。明けたばかりの空は、澄み切って濃い青だ。空気が朝の精気を含んで澄んでいる。

 

 らいは定期便?が終わるとすぐに帰りたがる。こちらも胃の検査が8時という早い予定のうえに、目指す医院は藤沢市。バス、電車を乗り継いで小一時間かかる。お互いの都合が合致したため、散歩はショートパターンで終えることにする。

 


 本日、夫婦そろっての胃の内視鏡検診。つれあいは上星川の次女の家から出かけてくる。次女が3日に2人めの男児を出産、その家事手伝いに行っている。


 久しぶりに出勤時間の電車。下りの小田急線各駅停車江の島行き。沿線に私立の小学校が多いせいか、小学生が目立つ。ほとんどの人がスマホを眺めている。上りの新宿行きに比べれば、穏やかな空気の車内。途中、急行に乗り換えもできたが、そうせずに藤沢まで各駅に。

 

 胃カメラの検診は初めて。先日ピロリ菌の検査をしたところ、陽性という結果に。尊敬するかかりつけのI医師は「ピロリ菌除去をする前に、一度内視鏡をやっておいた方がいいかもしれない」とのたまった。からだのことはすべておまかせしている彼に言われれば考えないわけにはいかない。

 

 定期健康診断のバリウムの胃検査は、事後の気持ち悪さから50代以降ほとんどパスをしてきた。内視鏡など想像すらしたことがなかった。

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すこし前の庭のコデマリ


 I医師がいうには、「眠っているうちに終わりますよ」とのこと。

 

 内視鏡の扱いには医師それぞれ上手、下手があって、下手な人にやってもらうと大変なことになる、上手な人だとほとんどえずくことなく終わるといった話は聞いたことがある。それが今では「眠っているうちに」終わるとの話に、逡巡することなく了承してしまう。


 その日、そのままI医師が紹介してくださった内視鏡の専門医O消化器科へ向かう。

 いくつかの医院が入ったビルの3階。メディカルビルというのだそうだ。こういうビルが増えているような気がする。

 エレベーターを降りるとすぐにエントランス。明るくて清潔そうな院内。

 待合室に坐っていると看護師や看護助手の人たちが行きかうが、かなり人数が多い。

 検査で訪れる人が多い医院と聞いていたので納得。

 

 勢いでここまで来てしまったが、本当に「眠っているうちに」なのか、まだどこか半信半疑のところがある。O医師の診察のときに再度確認する。O医師は「眠っているうちに、あっという間で終わりますよ」とこともなげに云う。間違いないらしい。


 当日の準備等については看護助手の方からと「カウンセリング室」に通される。一坪半ほどの広さの狭い部屋。向かい合わせにソファが置いてあって、片方に私たち二人が坐る。

 20代と思しき若い看護助手の女性が入ってくる。当然向かい側のソファに坐るかと思ったら、書類を私たちにみえるようにかざしながら膝をついて説明をする。そこまでしなくとも、と思う。

 立て板に水を流すように説明が続き、署名をする。しかしまだどこかに一抹の不安がある。「眠っているうちに」はほんとうにほんとうなのか?

 

 「あの、あなたは内視鏡やったことあるんですか」。

 バンジージャンプをする人の安全ベルトの確認はするが、自分では飛んだことがない、そういう人にあの恐怖はわからない、私は飛んだことはないけれど。

 

 藪から棒の私の質問に、彼女はひるむことなく笑みを浮かべながら応えた。

「はい、この間やりました。なんか寝言を云ってたよって言われました」。

寝言か、リアリティがある。間違いない。「眠っているうちに」だ。

 

 

 そして今朝。8時の受付のあと、ほどなく検査室に案内される。ここの診療時間は9時から。こうした検査は診療が始まる前にやってしまうようだ。

 

 ベッドに横になる。メガネを取られる。胃の中の泡を消す薬というものを飲まされる。鼻の穴に3種類の薬を注入される。苦い液体が口の中に入ってくる。

「飲んじゃっていいですよ」

 左腕に点滴の針を刺される。

 

 「薬を入れるとすぐにねむくなりますからね。前の方が終わったらすぐに始めますの  で」。

 

 からだを横にして目をつぶる。

 眠くならない。

 検査室から女性の「おええ、おええ」と激しくえずく声が聴こえてくる。

 まだ眠くならない。

 遠くから「終わりましたよ」の声。女性の検査が終わったようだ。いよいよ私の番。

 しかし眠くならない。麻酔が効かないのか?

 

 「○○さん、では入りますよお」の声に、「まだ眠くならないんですけど」。
 

 「はい、まだ薬、入れていませんから。薬は検査室で先生が入れますのから」。なんだそうだったのか。針を刺しただけだったのか。自分の勘違いに可笑しくなる。


 O医師が入ってくる。名前を確認し薬を入れる。言われてみればこの順番だ。

 

 目が覚めたときには先程の隣の部屋。検査は10分ほどで終わったらしい。

 入れ替わりにつれあいが名前を呼ばれているのが聞える。

 

 少しふらふらするが、気分は悪くない。歩いて待合室へ。

 

 長年、おびえ続けてきた内視鏡検査。ここまで受けずに引っ張ってきてよかった。楽ちん、楽ちんである。

 しかし問題は検査ではない、結果だ。しかしそんなものを詳しく書かれても読まされる方は気詰まりだ。

 「無罪放免」ではなかったということだけを書いておこう。

 つれあいは「完全無罪」。

 

 私だけが次の来院予定を確認されたことは云うまでもない。

 

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上野の西洋美術館で (4月25日 ここは撮影OKである)