久しぶりの菊名。回遊する地域、Iさんの試みと思い。人が街をつくる。新しい脈動。

4月26日
 6時半、外はいつもよりずっと暗い。弱雨。さほど寒いわけではない。長袖のシャツ一枚、ライを置いて二人で傘をさして出かける。


 境川河畔、鶴間小の何本かの八重桜が散り始め、50mほどのピンクの小道が出来ている。雨の中、あちこちのお宅でボタンやシャクヤクが見事な花を咲かせている。こでまりもきれいだ。
 

 雨が降っているのにカワウが羽を干している。人間にはわからないカワウの事情があるのだろう。

 

 

 所用で出かけた帰りに菊名のIさんに電話。お昼を一緒に食べることに。
 菊名にはかつて30年間住んだ。離れてもう10年近くなる。

 

 駅で待ち合わせをして目的のお店のある西口商店街へ。ずいぶんな様変わりだ。

 私たちが80年に移り住んだ頃には、魚屋、八百屋、肉屋などが軒を連ね、人通りも多かったのだが、10年前にはすでにシャッターが増え始めていた。乗降客数13万人を超える駅なのだが、東口に比べて西口の凋落ぶりは激しい。


 見知ったお店は、たばことお茶を売る老舗、同じく和食老舗のH。韓国料理のUは何度か入ったことがあるが、このあたりでは新しい方だ。入り口がラーメン屋で通り抜けると居酒屋になるというMも健在のようだが、あとはもう知らないお店ばかり。
 

 おしゃべりしながらほどなく目指すお店に到着。おからさんカフェ。入口に大きな男の子がメニューをもって呼び込みをしている。

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中に入ると車いすの青年。奥の座席に坐ると小柄な女の子が注文を取りに来る。驚くほど丁寧な接客。一つひとつゆっくりきっちり確認していく。
 ランチのメニューは、店名通りおからキッシュとおからハンバーガーの二種類。飲み物はコーヒー、紅茶、ルイボスティー、ハーブティ。私はおからハンバーガーとコーヒーを選択。Iさんも同じものを注文。


 Iさんとはこの間、ルミナスコールの定期演奏会で会ったばかりだが、演奏の間の中休みに少し話しただけだったので、今日は少しゆっくりと。


 そろそろ発売になる『現代思想5月号』を差し上げる。代わりに『教育依存社会アメリカ』『日大闘争の記録Vol.9忘れざる日々』をいただく。前者は前から気になっていた本。高くて手が出なかった。Iさんは訳者の方とつながりがあるらしい。帯は教育社会学者の広田照幸さん。

http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3288

 

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 話に夢中になっていたら隣の席に旧知のSさん。Sさんは大倉山、菊名を中心に障碍児者と健常者がともに生きられる取り組みを長く続けてこられた方。お二人でランチに来られたようだ。
 「これ、出たばかりなの、Mさん(つれあい)とAさん(私)にプレゼントするわ」と1冊の本を手渡される。『ぷかぷかな物語~障がいのある人と一緒に、今日もせっせと街を耕して』(NPO法人ぷかぷか理事長 高崎明・現代書館)4月20日発行とある。

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 ランチが運ばれてくる。シンプルだけど何とも様子が良い。はてハンバーガーなるものを前に食べたのはいつだったか。ロッテリアだったことは覚えている。生涯で3回ほどしか食べたことがない。このおからハンバーガー、自然な味。どぎつさがない。サラダもスープも美味しい。Iさんの話をお聞きしながらついつい進んでしまう。食後のコーヒーも私好みのしっかりした味。得した気分。

f:id:keisuke42001:20190426180536j:plainランチ:おからバーガー

 「おからさん」という名前には聞き覚えがあった。筋向いに『アトリエおからさん』というお店がある。『おからさんカフェ』はここからできたお店だそうだ。二つとも障碍者と健常者が運営に参加しているお店だ。『NPO法人フラットハート』の経営。就労継続支援B型の事業所だ。

 Sさんが長く携わっている社会福祉法人かれんともつながりが深いお店のようだ。

(就労継続支援B型とは、障害や難病のある方のうち、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスです。障害者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつであり、比較的簡単な作業を、短時間から行うことが可能です。年齢制限はなく、障害や体調に合わせて自分のペースで働くことができ、就労に関する能力の向上が期待できます。事業所と雇用契約を結ばないため、賃金ではなく、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われます。厚生労働省社会福祉施設等調査によると、B型事業所は2016年時点で1万214事業所あり、利用者は25万2597人です=リタリコ仕事ナビから)。

 

f:id:keisuke42001:20190426180755j:plainアトリエおからさんのエントランス


 Iさんは、長く菊名に住んで、こうしたいくつもの取り組みをつないでいる。いわば市民活動家だ。「地域を回遊できるような場所に」。いくつものお店をその時々の用途で渡り歩けるような、そんな地域にしたいというのがIさんの願いのようだ。

 

 おからさんアトリエの向かい側には『親子の広場びーのびーの』もある。「地域で共に育ち合う子育て環境づくり」をめざしてつくられた『認定NPO法人びーのびーの』が運営しているスペースだ。ここも回遊する場所のひとつ。

http://www.bi-no.org/bino.html


 ここまでは私も少しは知っていたのだが、Iさん、「今日はもう一つ新しいところを見てほしい」と。おからさんカフェから少し坂を上ったところに『ギャラリー&スペース弥平』があった。二階建ての瀟洒かつシンプル、素敵な建物。
 中に入ると、グランドピアノ。憲法展が開催されている。地域の方々の持ち寄りで憲法に関わる展示や書、絵画などが展示されている。小さくヴィヴァルディが流れている。いい雰囲気。

http://galleryspaceyahei.com/


HPには「築50年を越えた自宅住宅の全面改装に伴って、1階に地域の方々との交流を目指してスペースを設けました。50㎡に満たない小さいスペースですが・・・ などさまざまにご利用いただけます。カフェコーナーも開設の予定です」とある。


 喫茶店のような素敵なバーカウンターの中にいるオーナーのNさんと3人でおしゃべり。ここで小さなコンサートや講演会などが開かれているとのこと。ここでIさんたちの地域の集まりなどもよくあるという。

 


 街は生きているというが、地方ではシャッター商店街となってしまっている街も多い。

 人が集中する中央ばかりがいつもリニューアルされ、一方「地方」は忘れられ、すたれていくばかり。格差は開いていくばかりだ。

 しかしそんな「地方」のシャッター商店街も起死回生の取り組みを若者とともに始めているところも多い。


 ここ菊名も、港ヨコハマからすれば都会の中の「地方」。地形的に谷の底にあって再開発が難しい場所だけれど、でもそのぶん何か新しい脈動が生まれているのも事実のようだ。建築機械やコンクリートがではなく、人が街をつくっていく。

 

Iさんが本を入れてくれた袋に「菊名打ち水大作戦実行委員会」とあった。