『ピラミッド』(へニング・マンケル)、風邪をひいて寝床で読む。

   体調不良である。
 1月27日、夕食後微熱を感じ、葛根湯を呑んで早めに就寝。いつになく手際のよい対応。
 1月28日、すっきり起きる。微熱もどこかに。夕方、30数年来の友人、横須賀のTさんとの年に二度ほどの会談(呑み会)、都合でキャンセルに。午後に予定していた卒業生D・Aさんから、風邪を引いたようだというLINE,こちらもキャンセルに。

 この日も葛根湯を呑んで休む。キャンセル2つ+葛根湯、風邪には良い兆候。


 1月29日、すっきり起きる。春の旅行の予約のためつれあいとイトーヨーカ堂内のJTBへ。石垣島

 20年以上使い込んだ中華鍋に穴が開いたので、新調する。家族も減ったので30㌢の小さいものに。いろいろ優れたものがあるけれど、鉄製のものに。

 中華鍋に穴があくということに驚いた。

 

 ユニクロヒートテック業務スーパーでらいのえさ用鶏肉。

 

 次の日朝、起きてみると絶不調に。こんなふうに来るのか、風邪は。邪だからな。

 咳、のどの痛み、だるさ、微熱、。4日間、日々一進一退しているうちにかかりつけの医院を受診するタイミングを逸する。

   1日、ブログを更新する。大阪なおみのことを書く。

 

 受診は一昨日2月5日、絶不調となってから5日後のことだ。

 

 今朝、4日ぶりに散歩。湿度100%。なのに霜が降りている。川面からはもやが湯気のように立ち上っている。あまり見たことのない光景。昨日の久方ぶりの雨と今朝の冷え込みのせい。

 

 結局、終日寝ついていたのは3日ほど。

 

 その間、寝床で『ピラミッド』(へニング・マンケル・2018年・創元推理文庫を読む。

f:id:keisuke42001:20190207181349j:plain

 634ページの文庫本。クルト・ヴァランダー刑事、久しぶり。

 今までにも何冊か読んできた。

『ピラミッド』は、中編5編で編まれていて、ヴァランダーのまだ若い巡査時代、刑事になりたての時代、そして今まで通りベテラン刑事時代と20年ほどの時間を描いている。

 

 もともとこのシリーズ、舞台がスウェーデンでありながら、ヴァランダーが活躍するのは、首都ストックホルムではなく、スコーネ地方、それも大都市マルメでなく、中世の街並みが残る小さな港町イースタ(地図を見るとユースタードとあるが、作中ではイースタとなっているので、こちらが正しい発音か)である。スウェーデンの最南部に位置する。

 デンマークコペンハーゲンへはマルメを経て高速船、ポーランドバルト海を隔てて対岸、と云っても自由労組「連帯」が蜂起したグダニスクまでは400㌔ほど。

 イースタはいつも船が行き来する街。

 そうしたことより今では、ヴァランダー刑事が活躍する街で知られているという。   ヴァランダーは町おこしの立役者となったらしい。

f:id:keisuke42001:20190207181405j:plain


 登場人物は、シリーズに出てくる妻のモナ、娘のリンダ、父親、姉のクリスティーナ、そして同僚のリードベリ、マーティソン、ニ―ベリ、ハンソン、スヴェードベリ、検察官のオーケソン、イースタ署の受付の女性エッバ、今回、それに加えてヴァランダーを刑事に引き立ててくれるヘムベリという個性的な刑事も登場。最終編では彼が病気で亡くなったことが記されているから、今までのシリーズには出てきていない。

 

 このシリーズに惹かれる理由のひとつは、今羅列してみた登場人物の名前だ。英語やドイツ語、フランス語、ロシア語、ポーランド語とも全く違う、独特の語感。ヴァランダーという名前はあまり面白くないのだが。

 

 それと同様に地名もいい。トレレボリとかトンメリラ、ヘルシングボリ、ハルムスタ。シムリスハムヌに至っては噛みそうで嬉しくなる。ほとんど聴いたことがないうえに、意表を突いてくるところがいい。

 

 ヴァランダーはいつも危険な目に遭いながら、スカッとはしないけれど、なんとか事件の解決まで見せてくれるのだが、面白いのは、季節と事件の背景、そしてヴァランダーを取り囲む家庭の事情だ。

 

 気候は、とにかく陰鬱この上ない。かなり寒いし、いつも冷たい風が吹いているような気がする。

 

 スウェーデン中の人が4月になるといつ春が来るのかと気を揉む。春はけっして決まったときにはやってこない。冬は必ず早くやってきて、春は必ず遅くやってくるのだ。(「写真家の死」304頁)

 

 腹が減った。今日に限って車で来なかったのを後悔した。雨が降り始めているのが窓を通してわかる。みぞれになっていた。町の中央部までこの天気の中を歩くのは気が進まなかった。机の引き出しにピザ屋のメニューが入っている。注文すれば配達してくれる店だ。メニューをみたがどれがいいかわからない。しまいに目を閉じて指で指して、その品目を電話で注文した。そのあと再び窓の前に立って、通りの向かい側にみえる街のウォータータワーを眺めた。(「ピラミッド」413頁)


 暗くてカッコ悪い。

 主にヴァランダーシリーズは80年代から90年代を舞台としているが、私たちが見知ってきたスウェーデンは先進的な福祉国家であり、犯罪発生率も低く、子どもや老人が幸せに暮らしているといった、漠然としたイメージがあるのだが、ヴァランダーの眼を通して見るスウェーデンの社会は、かなり違う。

 

 ヴァランダーは机の上の書類を片付けていった。スクールップでの虐待事件のあとは、イースタ市内のビルグリムガータンで起きた押し込み強盗事件だった。真昼間に民家の窓ガラスを叩き割り、貴重品をごっそり持ち去った事件である。スヴェードベリの報告書を読みながら、ヴァランダーは首を振った。近隣の人間がだれ一人としてそれに気づかなかったとあるが、本当だろうか?
 スウェーデンでも市民の間に恐怖が広がり始めているのだろうか?もっとも簡単な通報を、あるいは目撃したことを警察に話すのを、避けたがる。もしそれが事実なら、事態はおれが思っているよりもずっと悪いかもしれない。(「ピラミッド」436頁)

 

と、小さな一地方都市の刑事であるヴァランダーが考えるスウェーデンの社会。気候と相まって希望の感じられない陰鬱さが漂う。

f:id:keisuke42001:20190207181831j:plain

 

 ヴァランダーの家族。これもこのシリーズに深みを与えている。
 まず父親。一人暮らしの父親との不仲。父親はライチョウが入った絵を描き続けている。父親は若いヴァランダーが警官になったことが面白くない。ヴァランダーもまた警察官、刑事であることに満足できず、かといって他の道があるわけでもなく、鬱屈している。


 今回は、その父親がカイロに一人で旅行をし、ピラミッドによじ登るという蛮行に及ぶ。ヴァランダーが仕事の合間を縫って飛行機で駆け付け、罰金を払って事なきを得る。駆けつけると言ってもスウェーデンとエジプトだ。

 父親は特別感謝するでもなく、留置場から出ると、そのまま旅行を続ける。

 認知症とまでは云えない頑固で偏屈な父親の変化が、本作ではよく描かれている。老人問題が一筋縄ではいかないことがよくわかる。


 すこし話がそれるが、本作には、ヴァランダーがカイロに向かう父親を送ってマルメに行っていたことを署長になじられるシーンがある。

f:id:keisuke42001:20190207181845j:plain

 ほとんどが超過勤務の毎日、代替要員のいない中での勤務であるのに署長のビュルクは普段けっこう暇している。ヴァランダーはキレる。


 ヴァランダーは、これ以上続けると正式な叱責になるがという署長を睨みつけ、何も言わずに部屋を出る。しかしすぐに踵を返して署長室に戻り、所長の顔を睨みつけながら言う。

「あんたの文句などクソくらえだ。そんなところでどうしようもない文句を言うくらいなら、正式の叱責とやらをもらおうじゃないか。あんたの御託など聞きたくもない」(「ピラミッド」465頁)

 

 これだけ言ってもヴァランダーはクビにはならない。それほど人手がすくないし、ヴァランダーに去られてはイースタ署はにっちもさっちもいかなくなるからだ。指図しかしない官僚と現場の問題には、国の違いなど関係ない普遍的なものがある。

 

 さて、若いヴァランダーは、モナに惚れている。なんとか結婚したいと考えている。デートにも工夫する。

 

 しかし、中編2作目、3作目になると結婚はしたもののすれ違いが続き、リンダが産まれてからもうまくいかず、結局は別居状態に。このあたりのスウェーデンの男女関係の機微がよく描かれている。日本の男女の機微とはかなり違うが。


 新しい男とつきあうモナを娘のリンダは嫌悪し、ヴァランダーに告げ口する。ヴァランダーはそれを聴いて留飲を下げる自分に嫌悪する。

 そうしながらも、ヴァランダーは愛情を感じない家族持ちの看護師のエンマとたびたび肌を重ねるし、仕事で訪れた旅行会社のスタッフ、アネッテ・ベングトソンに岡惚れしてしまう。アネッテは20代である。敏腕刑事と性根の坐らない中年男の同居。困った男である。

 

 長くなった。こうした周辺の描写があってこそのヴァランダーシリーズだ。ヴァランダーは緻密にすべてが統合された優秀な人物とは全く違う。そんな人物が、独特の嗅覚で事件の真相に挑んでいく。捜査官たちは皆それぞれに二面性があるのだが、どこかに紐帯があって結びついている。そのなんというか微妙なつながり具合もいい。

 5編の内容には触れない。ヴァランダーシリーズを読んできた方ならかなり愉しめる。もちろんそうでない方も。

f:id:keisuke42001:20190207182008j:plainヘニング・マンケル

 



お知らせ

 

イベント

2018年度

 コミュニティカフェ「スペースナナ」の連続講座 

         ~生き心地のよい新しいコミュニティのつくり方

 

第9回 原発事故から8年目、お互いの立場を越えて支えあう

●2月10日(日)14:00~16:30
東京電力福島第一原発事故の後、幼児二人を抱え身重で武蔵野市に避難し、現在は避難者や支援者が交流できる場「むさしのスマイル」を運営する岡田めぐみさん。実家のある神奈川県に一度は母子避難しながら夏休みまでの3か月間福島に戻った苦い体験から、地元のボランティアグループ「母ちゃんず」で、福島県の親子の自然体験キャンプを実施する鹿目久美さん。郡山市から母子避難し「避難の協同センター」の共同代表として避難者救済の具体的な施策の実現を求めてロビー活動に奔走する松本徳子さん。それぞれのご経験を踏まえ、お三人に、当事者が孤立しないためにどのような支援が必要か、情報の届け方、場づくりを含め、様々な角度から問題提起をしていただき、地域でできることについて話し合いたいと思います。


参加費:700円

定員:25名

ゲスト:岡田めぐみさん(福島県から武蔵野市に避難。「むさしのスマイル」代表・    「避難の協同センター」世話人
  鹿目久美さん(福島県から神奈川県に避難、保養グループ「母ちゃんず」メン  バー)
  松本徳子さん(福島県から神奈川県に避難、「避難の協同センター」共同代表)

 

営業時間   11時~18時 *定休日月曜・火曜(日曜・祝日はオープン) 地図
所在地 〒225-0011 横浜市青葉区あざみ野1-21-11
TEL 045-482-6717
FAX 045-482-6712
E-mail info@spacenana.com
アクセス 東急田園都市線横浜市営地下鉄「あざみ野」駅・西口より
徒歩6分