去年のクリスマスイブから18日間、関東では雨が降っていないという。
今朝の湿度37%。気温は1℃。
風がないのでさほど寒さは感じないが、かなり乾燥している。
インフルエンザの流行も始まっている。快晴。
毎日のように火事のニュースを見る。火事には限られた報道だけでは見えない事情がいくつも隠されているようで、短いニュースにもさまざまな想像をしてしまう。寒空に焼け出された人、亡くなった人、気の毒である。
一昨日から、新聞やテレビで東京の正則学園の教員たちのストライキが報道されている。教員のストライキは最近ではかなり珍しい。ストライキ自体が激減しているし、報道もされない。
東京新聞1月8日
今回大きく報道されているのには、毎朝6時半から行われる理事長へのあいさつの強要というエキセントリックな経営者の問題がある。
学園側は「強要はしていない」としているが「事実」は否定していない。
この学校では、数十人の教員が6時半前に出勤して、理事長室の前の廊下に一列に並び、一人ひとり入室して理事長に挨拶、神棚に拝礼するらしい。遅刻すると理事長から叱責を受けるという。
いまだにこんなことをやっているのかとあきれる。やっている方はマジなのだろうが、傍から見ると茶番にしか見えない。勤務時間でもない時間に、出勤とあいさつを強要するのは違法どころか犯罪にもなりうる。
強要はしていないとは、強要している人たちの常とう句。「命令ではありません。お願いです」に近い。
「強要はしていない」の「は」が問題。「は」は「強要」は除外するけれども、それに類する、あるいはそのものにきわめて近いものは含まれる。いいわけである。結果、強要しているのである。
こうした風習が35年以上も続いているのだとか。35年間違法状態を続けてきたということだ。それにしてもこの理事長は就任して20年以上というが、早起きだ。私もかなわない。
一事が万事を表す。
問題はこうした体質のもとに行われている学校経営の方にある。
あきらかにブラック学校だ。私学教員ユニオン(2018年に結成されたばかりの組合。東京には100の私学を組織する私教連東京(全教加盟)があるが、これとは別につくられた、おそらく少数労組。親近感がある)の情宣を見ると、正則学園では、
① 超過勤務の常態化(残業が月80時間の過労死ラインを超える教員がほとんど)
② 残業代の不払い(出勤は実時間を打刻~6時半前、退勤は一定の時間に事務職員が勝 手に打刻)
③ 休憩時間の不確保(連続勤務が14時間の及ぶ)。
④ 団体交渉もなく、昇給停止、ボーナスの減額が行われている。
⑤ 非常勤講師に対する低待遇(授業外業務への賃金未払い)。
などが挙げられている。
私学の教員は公立の教員と違って原則労働法全般が適用される。組合の結成や団体交渉、そしてストライキ権が保障されている。
組合の結成(団結権)は、今回私学教員ユニオンに加盟したことで果たせている。20人ほどが加入しているようだ。
団体交渉、これからここが一番の闘いのステージになる。かなり長時間になるだろう。そのぐらい課題が多い。退勤時刻の事務職員打刻というのがいったいどのような指揮命令系統で行われているのか、明らかにしてもらいたいものだ。
そしてストライキ権だが、今回6時半から始業までの1時間半のストライキを今日現在3日間続けている。
勤務時間をサボタージュして、企業の業務に支障をきたすのがストライキだとすると、今回の始業前のストライキは少し意味が違う。勤務時間でない時間を勤務の時間のように強要されてきたこと、これが朝の1時間半なのだから、これをサボタージュするという戦術は大いに意義があると私は思う。
団体交渉に応じるまでストライキを続ける意向のようだ。
経営者側は「時間外のあいさつ強要」という報道によって受けたダメージにはかなりのものがあるはず。そのまま、来年度の入試、募集に大きな影響があるだけでなく、ブラック企業として労基署の指導も入る可能性もあるし、下手をすれば違法労働で立件されることもある。一気に攻めた労組の勝利は間違いないと思う。
しかしこれほどのブラックさがなぜ今まで放置されてきたのだろうか。学校というところはそういうところだ、と言っても分かってもらえないが、ほとんどの公立学校もこれに似た状態であることを考え合わせれば、正則学園が特別ではないことが分かってもらえると思う。
公立学校で言えば、ユニオンが指摘する①~⑤のうち、①~③はそのままほとんど当てはまる。
①は中学校の教員の50%以上が過労死ラインを超えていると言われているし、②は公立学校の教員の場合、給特法によって残業代が支払われていないが、残業時間の記録すら取られていない職場が多く、横浜でも「校長先生に迷惑がかかるから、タイムカードは早く押しておこう」というようなことがまかり通っている。
③は、全国共通、少なくとも課業中に休憩時間が取れている例を私は知らない。
ついでに④の団体交渉は、公立学校の労働者は労働組合法は適用されず地公法に拠る。地公法では労働組合は職員団体と呼ばれ、給与、人事などを除く勤務条件についてのみは交渉が認められている。
当然各単組というか職場単位にある職員団体が管理者たる校長との交渉権を保持しているはずだが、これを行使している例は極めて少ない。ほとんど団体交渉はないのである。
⑥ の非常勤講師、臨時的任用教員の問題だが、これも低待遇であるし、同一労働同一賃金には全くなっていない。
こうしてみてみると、正則学園の問題は「理事長への挨拶の強要」がセンセーショナルに取り上げられたが、それを除けばほとんどすべてが現在の公立学校の問題と重なるということだ。
教員という職業についている人は、そこそこにプライドが高く、「やらされている」という格好を嫌う。
私も含めて、自ら進んで創造的に仕事をしていると考えたい人たちだ。じっさいは「やらされている」ことがほとんど認めたがらない人たちだ。
「ひどい学校あるよなぁ、朝6時半から理事長に挨拶だって?」と笑っていられない状況が公立学校にはある。
6年ほども前になるだろうか。組合員から「校長のパワハラがひどい。職員に対するえこひいきも、校長のやりたい放題だ。夜中10時の生徒指導なんかでは、校長が職員室に入ってきたときには職員全員が起立して校長の話を拝聴する。なんとかしてほしい」という訴えがあった。ちょっと正則学園に似ている。
事前にいろいろ調査し、十分に準備をしてその学校に出掛けた。正規の手続きをとって交渉のテーブルを設定したのだ。職場の意気も一部上がっており、それに乗じて少数組合が出張ったのだった。
校長は「無理にそうしろと命じたことはない。そうとられるとすれば残念だ」などと言い訳に終始したが、こちらの追及にほとんどの事実を認め謝罪をした。
寒い時期ではあったが、1時間を超える交渉の最中、校長は一度もマスクを外さなかった。それと私の名前に「委員長様」をつけたことを憶えている。
威張り腐っていた人間がこれほど卑屈になるものかと驚いた。しかし公立の校長はその程度である。
私立学校の経営者となると一筋縄ではないだろう。ユニオンは経営者との闘いには一定に勝利できるだろうが、今後は父母、卒業生、同窓会などとの複雑な関係もある。こうした場合出てくるのは、「学校の名前を汚した」「入試で不利益を被った」「偏差値が落ちる」といった批判である。
汚れていたのは今までのことで、今回、その汚れを何とかしようと立ち上がったんです。まともに教員が働ける職場こそ生徒にとって最大の教育環境です、ぜひいっしょに学校の汚れを落とす掃除をしませんか、と呼び掛けてほしい。そして何より高校生たちにこの問題を伝えてほしい。
名前がそっくりの正則高校が9日、「別の学校です」とのコメントを発表した(こちらは学校法人正則学院の経営、全く別の学校。かなり紛らわしい)。
正則高校のユニオンから正則学園のユニオンへの連帯の意思表示は、まだないようだ。