リドリー・スコット、81歳。クリストファープラマー89歳。次はどんな映画を撮るのだろうか。

 ゲティ家の身代金』(アメリカ・2017年・133分・原題:All the Money in the World・監督リドリースコット・出演ミシェル・ウイリアムズ・クリストファー・プラマー
 

    監督リドリー・スコットは今年81歳になる。私が見た彼が監督したいちばん古い映画は『エイリアン』(1979年)。続いて『ブレードランナー』(1982年)『ブラックレイン』(1989年)『ハンニバル』(2001年)『プロメテウス』(2012年)『リピーテッド』(2015年)『オデッセイ』(2016年)『エイリアンコベナント』(2017年)『ブレードランナー2049』(2017年)。

 
 元来、監督や俳優の名前を憶えない質なので、今になってこの映画もリドリースコットが監督していたのか、というものがいくつもある。たとえば『ブラックレイン』『ハンニバル』『リピーテッド』など。それぞれ印象的な映画だ。リドリー・スコットとはっきりと意識してみるようになったのはごく最近のこと、『オデッセイ』あたりから。それ以降見たのは本作で4作目になる。

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 最近の三作をみても、とにかく重厚で緻密、完璧主義という印象が強い。“映画界屈指の映像作家”というような評価があるようだが、その通りでとにかく凝り性だということはよくわかる。それだけでなく作品に込められた思想的というか文学的な深さをみるごとにいつも感じる。私の勝手な見立てで恐縮だが、この『ゲティ家』もそう感じたのだが、『オデッセイ』『エイリアンコベナント』『ブレードランナー2049』に共通するのは、圧倒的な“孤独”だ。『オデッセイ』『エイリアンコベナント』は宇宙空間を使って、『ブレードランナー2049』は未来空間を使って、『ゲティ家の身代金』は現実の世界を使って、それぞれ圧倒的な孤独へどう向き合うのか、というテーマがあるように思えた。特に本作のクリストファー・プラマー演じる石油王ジャン・ポール・ゲティのお金に対する執着と自恃の気持ち、それに倍する孤独の深さがよく表れていると思った。
 
1973年に起こったアメリカの大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を、「オデッセイ」「グラディエーター」など数々の名作を送り出してきた巨匠リドリー・スコット監督のメガホンで映画化したサスペンスドラマ。73年、石油王として巨大な富を手に入れた実業家ジャン・ポール・ゲティの17歳の孫ポールが、イタリアのローマで誘拐され、母親ゲイルのもとに、1700万ドルという巨額の身代金を要求する電話がかかってくる。しかし、希代の富豪であると同時に守銭奴としても知られたゲティは、身代金の支払いを拒否。ゲイルは息子を救うため、世界一の大富豪であるゲティとも対立しながら、誘拐犯と対峙することになる。ゲイル役をミシェル・ウィリアムズ、ゲイルのアドバイザーとなる元CIAの交渉人フレッチャー役でマーク・ウォールバーグが出演。ゲティ役をケビン・スペイシーが演じて撮影されたが、完成間近にスペイシーがスキャンダルによって降板。クリストファー・プラマーが代役を務めて再撮影が行われ、完成された。  
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    もともとリドリー・スコットは、石油王ジャン・ポール・ゲティに老優クリストファー・プラマーを充てようと考えていたと言われるが、諸事情からケビン・スペイシー(私は『評決のとき』(1996年)『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)『交渉人』(1998年)などをみているが、いわゆる人気俳優である)で全編を撮り終えた。直後にスペイシーのセクハラ問題が発覚、スペイシーの出ているシーンをすべてクリストファー・プラマーで撮りなおしたという。それだけで1000万㌦かかったというから破格だ。

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クリストファー・プラマー


    クリストファー・プラマーは、今年89歳になる。このブログの6月の項で触れたが、映画『手紙は憶えている』(2015年)で主演、認知症で元ナチス兵の役を演じた。ラストシーンの大どんでんがえしは忘れられない。素晴らしい演技だった。古くは『サウンドオブミュージック』にも出ているらしい。

f:id:keisuke42001:20180917165718j:plain                       手紙は憶えている』のクリストファー・プラマー

 

 プラマーは映画公開直後にアカデミー賞はじめたくさんの映画賞にノミネートされているが、すべて助演男優賞だ。たしかに誘拐されるジャン・ポール・ゲティ三世の母親ハリス役のミシェル・ウイリアムズが主演ということになるから“なるほど”なのだが、プラマーもまた助演ではなく主演なのではないかと思う。それほどにプラマーの演技には凄みがある。ケビン・スペイシーの降板は、怪我の功名、災い転じて福と為す、だったのではないか。スペイシーで見ればそれはそれなりにいいのだろうが、プラマーをみてしまうと差し替え不能という感じがしてしまうのは身びいき過ぎるか。

 『手紙は憶えている』とこの『ゲティ家の身代金』を続けて見れば、プラマーの円熟を通り越した存在のすごさがよくわかるはずだ。

f:id:keisuke42001:20180917153419j:plainケビン・スペイシー


    この映画のいいところは、身代金奪取を狙う犯人側とそれを阻止しようとする警察との誘拐活劇になっていないところだ。

 映画は人も物も細部にわたって1970年代前半のイタリアの雰囲気がつくられているし、石油王のゲティが所有する家や物も時代を感じさせる。当時の誘拐犯に対する警察の追及もアイテムがしっかり時代を感じさせるし、犯人のアジトや逃走の背景など、マカロニウエスタンをみているような迫力を感じる。が、それ以上に母親、息子、祖父の3人の演技、映像による心理描写をじっくり見せてくれるのがいい。セリフはそれほど多いわけではないが、その分それぞれの表情が複雑な感情を表現しているのだ。それにリアリティを与えているのが細部の完璧主義だ。


    誘拐活劇を期待している人にはあまり面白い映画ではないかもしれない。クリストファー・プラマーをはじめとする心理劇をみにいくと思えば、十分に楽しめること請け合いである。
   

    リドリー・スコット、81歳。クリストファープラマー89歳。次はどんな映画を撮るのだろうか。