12日、日曜日。珍しく日中エアコンを使わないで過ごす。
あすからお盆、今日が帰省ラッシュのピークだという。何十キロの渋滞に200%以上の乗車率。気の毒である。
日航機の事故から33年、追悼登山の報道に見入る。
あの頃は毎年子どもを連れて帰省していた。まだ父も元気なころで、結構、長逗留をしたものだ。東北の朝は涼しく、田んぼは青々と稲が育っていた。目を輝かせてカエルを捕まえる子どもたち。
そろそろ孫たちがその年齢になる。
旅の途中ではからずも命を落とされた520人の方々の冥福を祈りたい。
9日に『ダンガル~きっと強くなる』(2016年・インド・140分・原題:Dangal・監督ニティーシュ・ティワリー・主演アーミル・カーン)と『ロンドン、人生始めます』(2017年・イギリス・102分・原題:Hampstead・監督ジョエル・ホプキンス・主演ダイアン・キートン)をみた。
『ダンガル』のサブタイトルは、『きっとうまくいく』(2009年)をもじったもの。
配給会社は“ダンガル”だけでは意味不明と考えたのだろう。
“ダンガル”とは、レスリング競技そのものを表すだけでなく、戦い続けるものへの称賛などを表すようだ。
主演は『きっとうまくいく』と同じアーミル・カーン。父親マハヴィル役。彼は『PK』でも主演。宇宙人の役だった。これもよかった。とっても渋くていい男、“ダンガル”の中では「あれ?ロバート・デニーロに似ている」と思ったシーンがいくつかあった。
インド映画にはもともと興味もなく、ほとんどみたことがなかった。それが最近は、インド映画というと関心が向くようになった。
『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)『きっとうまくいく』、それに『マダム・イン・ユーヨーク』(2012年)『めぐりあわせのお弁当』(2013年)『PK』(2014年)など、どれもシンプルなのに独特の情感と臨場感がある。気がつくと映画の中に引きずり込まれてしまっている。この求心力は明らかにほかの国の映画にはない特質だ。大作の『バーフバリ』はみていないが、二部作併せてみてみたいと思っている。
さて『ダンガル』。早くみたかったのだが、家事に追われ?なかなか都合がつかず(こういうことがよくある)、見逃す寸前に時間が取れて上映最終日に間に合った。まずあらすじ・・・。
「・・・生活のため選手の道を諦めた彼(マハヴィル)は、いつか自分の息子を金メダリストにすることを夢見ながら道場で若手の指導に励む日々を送っていた。しかし生まれたのは4人連続で女の子。意気消沈した男は道場からも遠ざかってしまうが、ある日ケンカで男の子を打ち負かした長女(ギータ)と次女(バビータ)の格闘センスに希望を見出し、コーチとして2人を鍛えはじめる。町中の笑いものになっても意に介さず突き進もうとする父と、そんな父にささやかな抵抗を続ける娘たちだったが……。」(映画.comより拝借)
実話をもとにしたとあるが、ネットには中心に描かれる姉のギータが、2013年女子ワールドカップで日本人選手栄希和と、妹のバビータが2014年のアジア大会で吉田沙保里と闘っているそうだ。ちなみに栄希和は、パワハラで日本協会本部長をやめた栄和人氏の娘さん。
もちろん演じているのは本人ではない。なのに全編すごい迫力だ。
テーマは、インドの女性蔑視の習俗を批判し、人間としての可能性を追求することの尊さということになるのだが、マハヴィルはひたすら男子をのぞみ、かなわず結果として姉妹を鍛え上げることになるわけで、「インドの女の子の星になれ」的なこの崇高なテーマはややあと付けっぽく軽い。
映画の中で描かれる地方の村では、女子がレスリングをやることなど考えられないのだが、都会では女子のレスリングのナショナルチームがつくられており、大変に人気のある競技になっている。このあたりがよくわからない。インドという国の一辺倒でない広さと深さということか。
わたしには映画の中で描かれる彼女たちへの熱狂は、田舎の小さな村から国際大会まで勝ち上がっていくインディアンドリーム?への期待と渇望に源泉があるように思えた。
この映画、宣伝惹句が面白い。公式ホームページから。
松岡修造
「この感動は金メダル!この映画で流す涙は、君の人生を変える!」。
残念だが、涙と映画では人生は変わらない。
「父を思い、泣きました。最高!!」
自分のこと?親子の葛藤は?
「元気ですかー!元気があれば何でもできる!!インドの映画は面白い!興味深く見せて貰いました」
あいかわらず。でも意外に謙虚。
「どれだけ非難されても信念を貫く父の姿に愛を感じた」
「よくおれの前でレスリングができるな」・・・信念を貫いたのはキミだ。
「誰がみても文句なく金メダルを差し上げるだろう。タイガー・ジェット・シン以来の衝撃だ!」
どういう衝撃か?つながらない。
「この映画を観て、若き日の自分と師匠カールゴッチとの歩みを思い出しました。あの日の自分のような主人公達に胸を打ちました」。
映画より自分をみている?無意識に自意識過剰?
「インド版星一徹のオヤジの金言は、全ての人に勇気を与えてくれる‼そして、その教えとともに見事に成長を続ける娘たち、天晴れ‼男でも女でも努力は身を結ぶ」
男でも女でも努力で”身を結ぶ”はちょっとまずい。「身」じゃなくて「実」だと思うけど。校正ミス。
きりがないのでやめるが、最後に極め付き。
栄和人
「泣いた。一人の人間を育てる、その難しさと喜びを、指導者として、娘の父として痛感した」
人の心の中にはたくさんの矛盾した感情があるんだね。
皆それぞれ自分の物語を映画に反映するのだ。映画の中から自分の好きなものをトッピングして自分の物語を飾る。その幅が広いのがこの映画の特徴だ。だれもが思いを込められる、ひとことで言えばわかりやすい「スポ根映画」である。
「スポ根」には欠いてはならないテーマがある。親子、家族、ライバル、指導者、友情、恋愛、秘密兵器の、敵の謀略、いやがらせ・・・これらの葛藤を超えて最後に栄光をつかむというパターン。間違ってもパワハラやセクハラは出てこないし、政治問題など入り込む隙もない。
そんなことを考えながらみても、この映画は断然面白い。
「ギータ!がんばれ!」なんて思うし、「バビータ、負けるな!」なんて。
老人をワクワクさせる回春?映画でもある(笑)。
どうしてこれほどこの映画は人をのめり込ませるのか。
答えははっきりしている。
スポーツそのものをちゃんと見せているからだ。
砂の上での男子との闘いから国際大会での実力者たちとの闘いまで、ギータとバビータの、精神はともかく肉体的な変化、筋力の強さをしっかり見せてくれる(幼少時と国際大会出場時は役者が代わっているが)。いくつもの対戦シーンのリアリティは出色だ。ロッキーに十分対抗できるレベル。
レスリングの技そのものも素人にもわかりやすく、そのうえ迫力満点。生の国際試合をテレビで見ているような気分にさせてくれる。
最後のシーンなど「あしたのジョー」の“クロスカウンター”に匹敵する技が用意してある。これら演出力は並大抵のものではない。
もうひとつ、冒頭のシーンがにくい。ネタバレになるので詳しくは書かないが、映画の導入としてメンタルもビジュアルも併せて一つの短編映画のようだ。
日本のスポーツ映画、というジャンルがあるかどうかわからないが、最近の日本の映画でこういう興奮に近いものを感じたのは『百円の恋』(2014年・安藤サクラ)ぐらいだろうか。
『ロンドン、人生始めます』は、ややありきたり。原題の“Hampstead”ハムステッドはロンドン郊外の高級住宅地の名前。その近くに住む自給自足のブレンダン・グリーソン演じるドナルドとダイアン・キートン演じるエミリーがひょんなことから知り合いになり・・・。
立ち退きから裁判、そしてドナルドが土地の所有権を獲得するという夢物語のような実話をもとにしているが、それより夫との死別後発覚する浮気や借金のこと、貯金の目減り、マンションの修繕費用など気にかかることがいろいろとあるのに、うわべだけの友人との付き合いから離れられないエミリーの生活にリアリティがある。
老境に差し掛かりながらもなかなか自分の生き方に確信がもてないエミリーを、何ともチャーミングなダイアン・キートンが好演している。
ドナルドとの老いらくの恋の面倒くささ?もとってもいい。
ラストシーンもしゃれていていいのだが、なぜか全編どこかでみたようなという感じが払しょくできない。ありきたりと思うゆえんである。
今年初めて手に入った小茄子(山形産)を塩とミョウバンで漬ける。
きゅうりとにんじんはぬかみそ漬け。