素晴らしいお店だった。ビールの冷え具合いもよい。おつまみは、天ぷらと刺身の盛り合わせを中心に注文したが、内容、量ともいずれも文句をつけがたいほどの料理。名店だと思った。盛り付けのバランスもきれいだし、見掛け倒しでなく食べ応えもある。鮮度もかなり良い。海老天は人数分出ている(笑)。

   教員の独立組合と学校事務職員の独立組合が共同で開催する集会が、御殿場で開催されるので出かけた。初めてJR御殿場線に乗った。8月4日のことだ。


  南町田から相模大野を経て御殿場に行くには、新松田で小田急からJRに乗り換える。新松田までは急行か快速急行の小田原行きに乗る。

 

 この電車、本厚木までは海老名しか停まらないが、本厚木からは各駅停車に変わる。小田原に近づくとまた何駅か飛ばす。

 この日、相模大野から乗ったのは各駅停車。急行だと夏はからだが冷え込んでしまうので、毎回律義にドアを開け閉めしてくれる各駅停車の方が都合がいい。10時。気温は35度を超している。

 


上半期の芥川賞の受賞作「送り火」が掲載されている文學界5月号をもってきた。芥川賞候補作品のうち3作を読むことなど、初めてのこと。「美しい顔」「もう「はい」としか言えない」についてはすでに書いた。以下、素人の勝手な感想。


 小説はこれだけしっかり書きこむものなんだと思った。文章に風格のようなものが感じられる。北東北独特の空気が感じられて引き込まれた。ただ、虫などがメタファーとして何度も出てくるが、うまくはまっているのかどうか。ブレーキに感じられるところもあった。

 

 思春期の暴力性についての突き詰めにはリアリティがあるのに、主人公の中学3年生歩に相応のリアリティが感じられなかったと思うのは私だけか。

 全体に文章の重厚さが私には少し重く感じられた。プロの作家の眼には、才能ありというふうに映る作品であるようだ。


 「美しい顔」については「盗用ではない」という共通認識が審査員の中にあったというが、新人賞という芥川賞の性格からすれば、もう少し評価されてもよいのではないかと思った。


 松尾スズキの「もう「はい」としか言えない」と3つ並べてみると、同じ小説というかたちでありながら、音楽と美術といった違うジャンルのものを比較しているように感じられた。ここにあと2作を入れて、読み比べて評価するなど大変なことだと思われた。

 

 

 新松田駅から50mのところにJR松田駅がある。小さな駅だ。待合室はない。自動券売機が2台。8畳ぐらいの広さ。ここではパスモが使えない。チケットを買ってくださいとの注意書きがある。JR御殿場線JR東海の最も東にある路線。JE東日本に食い込んでいる路線だ。

 御殿場駅までの500円の乗車券を購入。思えば券売機でチケットを買うのは久しぶりのこと。


 改札を抜けてホームへ。これがかなり長い。小田急線の特急電車「ふじさん」が乗り入れているせいだろうか。

 入線してくる電車は国府津駅からやってきたもの。国府津駅JR東海と東日本の境ということになる。


 松田駅を出ると、御殿場駅までは25㌔を35分ほどで走る。単線だが電化されている。7割ほどの乗車率。旅行客が多いようだ。目のまえには短パン姿の同じ世代と思われる男性。キャップに派手めのシャツ。きまっている。

f:id:keisuke42001:20180808213141j:plain富士山をバックに走る御殿場線


 先頭車両に乗る。小説は読まない。乗り鉄というわけではないが、初めての路線は物珍しくて楽しみなものだ。25㌔のほとんどを東名高速と交叉を繰り返しながら走る。深い森の中を右に左にカーブする軌道を走るため、景色が変わって新鮮。4つ目の駅駿河小山静岡県に入る。


 坐っていられず、運転士の右側に立ってしまう。


 御殿場線というと遠藤周作原作の『わたしが棄てた女』という映画を思い出す。

 1969年の浦山桐郎監督の映画。映画館で見た記憶がある。河原崎長一郎浅丘ルリ子加藤治子、そしてさえない女工を小林トシ江が出演していた。

f:id:keisuke42001:20180808213821j:plain映画「わたしが棄てた女」(パートカラー)


 映画に御殿場線のシーンがあったかどうか、今では覚えていないのだが、あとになって読んだ原作、とりわけ数年前に読み返した時には、主人公ミツが御殿場線で国立駿河療養所に向かうシーンで、ぐっとこみあげてきたのを憶えている。

 

 国立駿河収容所はハンセン病の収容施設である。吉岡に体よく捨てられた森田ミツは、ハンセン病との疑いから療養所に向かう。その時のミツの心理と山を登っていく御殿場線の暗いそして黒い蒸気機関車が重なって、鬱々とした情感が伝わってくるシーンである。


 ミツは結局ハンセン病でなかった。いったんは東京に帰ろうとするが、思いとどまりこの施設で介護の職員として働き始める。

 何年か後に、吉岡は施設にミツのことを問い合わせるのだが、交通事故で亡くなったと伝えられるのが結末だったか。

f:id:keisuke42001:20180808213843j:plain原作は「わたしが・棄てた・女」講談社文庫520円

 

 何とも救いのない人生としか思えないミツをスタイルも見場もよくない小林トシ江が好演している。好対照に、吉岡がミツを捨てて走る三浦マリ子を演じるのが浅丘ルリ子である。


 私にとっては文学とか人生とか、そういったものをちょっとだけまじめに考えるきっかけとなった映画である。

 

 


 御殿場駅に到着。高地である分、少しは涼しいかと思ったが、ほとんど変わらない熱気。会場”時の栖”’(ときのすみか)へのシャトルバスを探す。

 

 次の日、午前中にレポート。2013年に起きた市内K中学のセクハラ冤罪処分に対する5年間の闘いと人事委員会勝利裁決について報告する。

 女子中学生の証言をまともに受けて当該T先生を守ろうともしなかった二人の管理職、そしてそのまま報告を教育委員会議にあげて、懲戒処分を出した市教委事務局、それに対し4年半の審理の結果「教育委員会裁量権の逸脱」というのが横浜市人事委員会の判断。

 行政処分は99・9%覆らないというのが常識なのだが、覆った。そうは言っても、一人の教員の尊厳を守るために5年近くの時間と多額の金を要することになる矛盾は大きい。

 二日間の集会はお昼には解散。

 旧知の友人たちと連絡を取り合い、三島駅で昼食をかねて一杯やることに。

 前日のうちに集会には参加していない三島在住の先輩の方に連絡を取り、お店を決めてもらうことに。人数は当初3~4人と思っていたが、8人に。


 三島駅にはシャトルバスで30分ほどで到着。北口(新幹線口)にバスがつけられたので、待合場所の南口まで移動する必要がある。

 連絡通路があるかと一人が駅員に尋ねると、「150円の入場券を買ってもらえれば。そうでないとぐるっと回ることになります」との返答。150円!もったいないよ、ということで、成算もないまま「ぐるっと」に向かう。

 新幹線の高架沿いに荷物を持って歩くのだが、なかなか「ぐるっと」はやって来ない。結局20分ほどもかけて南口に到着する。150円払えばよかったと後悔するも、「いやいや、これでビールがうまくなる!」。

 

 「駅近でお願いします」と頼んであった。「うん、近いよ」と言われて皆、また歩き始める。

 着かない。

 炎天下5分ほど歩いて、思わず「あとどれくらいっすか」と不機嫌をにじませながら訊いてみる。「あと数分」。文句は言えない、一任したのだし。


 10数分後、めざすお店に到着。店名「和食蒲焼高田屋」。うなぎ屋。三島はウナギで有名な街。ここまで来る途中にも何軒もうなぎ屋があった。そして、ここも。

f:id:keisuke42001:20180808213254j:plain三島・和食蒲焼高田屋、いい店でした。

 

 入ると、左側に長いL字のカウンターが続いている。10数人坐れる。テーブル席もざっと30人近く坐れる大きな店。

 さてさて、汗をかきながらたどり着いたこの高田屋はどうだったか。

 

 素晴らしいお店だった。ビールの冷え具合いもよい。おつまみは、天ぷらと刺身の盛り合わせを中心に注文したが、内容、量ともいずれも文句をつけがたいほどの料理。名店だと思った。盛り付けのバランスもきれいだし、見掛け倒しでなく食べ応えもある。鮮度もかなり良い。海老天は人数分出ている(笑)。


 2時半ごろになって“ラストオーダーです”と声をかけられる。「まだ、呑んでいてもいいですか」と訊くと、「もちろんです、オーダーはストップしますが、ごゆっくりしていってください」とのこと。感じがよい。

 10分後、白い上っ張りを着たベテランの男性スタッフが私たちのテーブルに来て、「これから昼食休憩に入らせていただきます」と一礼。トイレに立った時に奥のテーブルをみると、老若男女10人ほどが静かに食事をしている。長い時間かかってできてきた店のしきたりが感じられる。

 

  え?それでうなぎは?

 うなぎ屋でうなぎを食べない。呑兵衛にはうなぎはつまみにならない。お店には失礼な話なのだが。

 

 早めに帰るという北九州の人たちは、新幹線の時間があるためタクシーを呼んでもらった。外は肌を刺すような日差しがギラギラしている。”次はいつ会えるかねえ”という会話が最近は冗談と思えない時がある。

 

 さて残留組。同じ道のりを歩いていく気分にはなれない。

 北九州組に遅れること1時間、タクシーを呼んでもらおうと言うと、件の先輩が「少し見せたいところがある」。内心“!”である。


 5人で歩き始める。突然、木立の中に清冽なせせらぎが見えてくる。こんなところに!と思うが、たくさんの親子が当たり前のように水の中で思い思いに遊んでいる。

 飛び石は靴の中に水が入らない程度に配置され、せせらぎに入ってもせいぜいがふくらはぎまで。この流れが200㍍ほど続く。ここが”源兵衛川せせらぎ散歩”という三島の名所。三島市の観光情報には、

 

「水の都・三島」らしさを感じられるスポットとして人気。

富士山の伏流水が湧き出る楽寿園内小浜池を水源とする源兵衛川は、三島駅から徒歩5分にありながら、初夏の夜にはホタルが舞う美しい流れです。

川の中には、飛び石などが配置され、湧水を全身で感じながら「せせらぎ散歩」を楽しむことが出来ます。

広瀬橋付近には、昔懐かしい手扱ぎポンプが設置してあり、子どもたちに大人気です。

 

とある。

f:id:keisuke42001:20180808212701j:plain源兵衛川せせらぎ散歩(市の観光情報から写真をいただきました)

 

まるで西行

 

    道の辺に清水ながるる柳かげしばしとてこそたちどまりつれ

 

さながらである。5人で靴下を脱ぎ、バッグを肩に担いで歩く。しばし涼を愉しんだことだった。

 


 このまま帰るやからではない。駅近くで「沼津○○寿司」なる店を見かければ、もう一軒ということになる。

 


こうして横浜の自宅に到着したのは20時近く。1泊2日の夏の旅だった。

 

 

 

f:id:keisuke42001:20180808214614j:plain本文とは関係ありません。

中世の乱痴気騒ぎ?(アムステルダム国立美術館