「二人を待ち受けるのは、ハッピーエンドさえ凌ぐ誰も見たことのないマジカルエンド」・・・映画『フロリダ・プロジェクト』タグラインはほとんど詐欺だ(笑)

    梁石日「Y氏の妄想録」(2010年)。好きな作家だが、読んでいなかったもの。図書館で借りてきた。面白くなかった。

 

 2018年上半期の芥川賞直木賞が決まった。芥川賞高橋弘希さんの「送り火」(文學界5月号)直木賞島本理生さんの『ファーストラヴ』(文芸春秋)に。北条裕子さんの「美しい顔」は入らなかった。


 この1か月、候補作で話題になったのは「美しい顔」だった。6月初めにブログを始めたのだが、ちょうどその頃に掲載誌群像5月号を偶然入手。読んだ時の衝撃が今だに残っている。当事者性ということにからめて書いた。


 あれから1か月余、この作品はいろいろな言われ方をした。毀誉褒貶。

 引用(盗用?)等についてはまだ決着をみていないが、私の結論はかわらない。

 若い書き手に新人賞を付与したのだから、その責任はすべて群像編集部、講談社にある。新人賞とならなければこの作品が日の目を見ることはなかったかもしれないし、もし単行本として出版されるとしてもこうした問題は、その書籍の編集者の責任となる。どこまで行っても書き手と編集者という関係は、本をつくる場合なくならないと思う。簡単に言うと、編集者は作家の「ケツをもつ」仕事なのだ。
 

 だから、初めは低姿勢だった講談社が、ネット上で全文掲載して信を問うといった姿勢に転換したことには疑問が残る。ネット掲載は読者として是だが、賞の責任者として基本的なミスがあったことを謙虚に反省する必要があると思う。

 北条氏自身が途中でコメントを出す必要があったのかどうかも疑問である。本人が「ごめんなさい」をしたので、留飲を下げたネット評論子もいたようだが、みんなで寄ってたかって・・・なんだかなあである。
 

 いきつくところ作品である。いろいろ周辺の雑多なものを取り除いて、作品そのものとしての「美しい顔」、それを読んでみること。エラい先生や評論家ではなく、普通の小説好きの生活人が読んでどうなのか。

 私などまさにそれだが、やはりこの作品は「いい」と思う。

 今朝、発表を見て「送り火」が掲載されている文學界5月号をネットで検索。「お取り扱いできません」になっている。

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 表紙を見ると「送り火」はもちろん、松尾スズキ青来有一の作品も載っている。ああ、こっちを買っておけばよかったと後悔。文學界3月号は、「岡崎京子大特集」。これはこれでおもしろかったが。

 松尾スズキの候補作「もう「はい」としか言えない」は、相変わらず達者な書きぶりで楽しく読んだが、素人目にはやや純文学的力の入りすぎの感あり、ちょっと難解、今一つだった。 

 まあ5月号はあとの祭りということで、2か月くらい経てば「送り火」は図書館で読めるかもしれない。
 

 今回の松尾の候補作でひとつ面白かったのは、登場人物の常連、脚本家の海馬五郎が今回は主人公なのだが、ひょんなことから彼の出身地が会津という設定になっていたこと。特別養護老人ホームに母親を置いているという設定だ。  

 これは、映画『ジヌよさらば~かむろば村へ』(2015年・121分・原作いがらしみきお)のロケが、会津で行われたことと関係しているのかもしれない。

 松尾はこの映画の監督を務めている。いがらしみきおの原作『かむろば村へ』(小学館①~④)は、彼の出身地宮城県を舞台にしているが、映画では舞台を会津地方にそっくり移して撮影している。私が18歳まで育った町や駅も映っている。方言もすべて会津弁である。

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 松尾も出演していて、阿部サダヲ松田龍平らが中心の、まさにスラプスティックシネマそのものなのだが、私には大好きないがらしワールドと松尾が合体して、そこそこの化学変化が起きているように見えておもしろかった。博多出身の松尾には、異郷の地会津がなにがしかの想像力を刺激する土地柄だったのかとも思う。今回の海馬五郎会津出身設定はそんなところからきているのかと思った。

 いがらしみきおと言えば、いま開催中の大相撲の中継に、いがらし作品に出てくる女性にそっくりの人が毎日画面に映りこんでくる。和服を着た端正な様子の妙齢の女性。毎日前から3,4列目の同じ席に坐って、日替わりの和服に身を包んでいる。

 「かむろば村」では、空からザリガニが降ってくる幻想的なシーンがあるのだが、周囲の空気から隔絶された高貴な雰囲気のただようこの女性を、うちでは”ザリガニおばさん”と命名して呼んでいる。

 

 

 

 猛暑、炎暑、酷暑、極暑、激暑、いろいろな言い方があるが、36℃ぐらいでは驚かなくなってしまった。

 天気予報では、気象予報士が40℃に届くかどうか、熱っぽく語っている。気象好きの人にはいつもと違うこんな年は楽しくて仕方がないのだろう。今日も「最高記録タイ39.8℃!」とうれしそう。オリンピックじゃないんだから。

 

 他にすることもないので、こんな暑い時は映画に限ると独り言ちて、午前中から本厚木映画ドットコムシネマへ。昨日のこと。

 

 『素敵にダイナマイトスキャンダル』(2018年・日本・131分・江本佑、前田敦子)『フロリダ・プロジェクト真夏の魔法』(2017年・アメリカ・112分・原題:THE FLORIDA PROJECT)の二本。間が3分ほど重なっているが、何とかなるだろう。年会費を払っているので、二本で1000円を払い、一番狭いSC2へ。

 入ってすぐに「寒い・・・」。暑熱の中を歩いてきて冷えたのか、ちょっとつらい。ロビーにおいてあるブランケットを取りに行く。こういうときに「歳をとったねえ」とつれあいは笑うのだが、今日は一人。気にしない。


 『素敵に・・・』は、昭和のアングラカルチャー、エロ雑誌などをけん引した末井昭さんの自伝本が原作。結核の母親が隣の息子との浮気がバレて、ダイナマイトで心中して亡くなるという出自を底流に、1960年代から主に昭和後期の時代に出版発禁を繰り返してきた、末井氏の生き方を描いている。

 昭和を知っている者には面白くないわけではない。ああ、そういえばこういう時代だった、こんな雑誌があった、ポカリスエットってこんな缶に入っていた、男はこんな髪形をしていた、ビニ本、ノーパン・・・。でも、正直映画としては面白くない。

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 母親のダイナマイト自殺という衝撃的な出来事が、末井氏のどこか自虐的でアナーキーな生き方の底にあることが示唆されるが、それがよくわかならない。伝わってこない。残念。

 

 『フロリダ・プロジェクト』、どうして“真夏の魔法”なんてよけいなサブタイトルをつけるのだろうか。この映画、ポスターとこの“真夏の魔法”というサブタイトルと、どちらも映画と思い切りすれ違っている。中身を正直に出せば客が入らないと配給会社が考えたか。

 ディズニーランドに隣接するフロリダのモーテルが舞台。一日30~45ドルのモーテルに住む母親と女の子が物語の中心。いつ宿無しになるかわからない貧困のすさまじさ、温かいフロリダ、観光地フロリダ、陽光の明るさと生活の貧困ぶりの対比がすごい。

 映画はドキュメンタリータッチのカメラの回し方、ドラマっぽさをあえて振り捨てて、BGMもほとんど入らない。5歳から7歳ぐらいの子どもたちの“悪がきっぷり”に、作り物でないリアリティがある。罵詈雑言もすごい。演出の力。

f:id:keisuke42001:20180719122817j:plain    このポスターだけ見ると、どんな映画かと。「二人を待ち受けるのは、ハッピーエンドさえ凌ぐ誰も見たことのないマジカルエンド」・・・「ハッピーエンドさえ」はないだろう。このタグライン、ほとんど詐欺。


 母親のめちゃくちゃぶりも、売春、詐欺、薬以上に、対人関係の不全ぶりが、ここまでかい? というぐらいすさまじい。湿気を感じる「万引き家族」とも違う。文化的基盤がそもそも違うのか。この映画をアメリカ人・・・と一言では言えないが、どう見るのだろうか。

 南国の海や夕日がとにかく美しいし、二人がスコールの中で踊り戯れるシーンなどもとってもよい、よいが、母も子もからっとしている分、そして周囲とつながれない分、みているのがつらくなる。コミュニケーション不全は、娘との間にはない。


 自己責任だとか育児放棄だとか虐待とかということばでこの母親を指弾はできるし、「そんなことしていないで、もっと前向きにこうすれば」なんてアドバイスをしたくなるのだろうけれど、それよりも、人は人でこうして生きているという重さ(しんどさを外側から称揚するわけではないが)と、非難する側の薄っぺらさが見えてくる。そんなふうに人間はわかりやすくできないぜ、といったところ。

 最後のシーン、初めてBGMが大掛かりにかかる。二人の女の子がディズニーランドのシンデレラ城めがけて走っていく。ぐっとくるが、ちょっと無理があるなと私は思った。 

 モーテルの管理人ボビー役のウィリアム・J・デフォーが素晴らしい。こういう役者の表現、味というのはどこから出てくるのだろうか。女の子ムーニー役のブルックリン・キンバリーには「参った」というしかない。初めての演技だという。

 フロリダの美しい光景をバックに差し込まれる登場人物のモノローグ、特にボビーがいい。彼の人生の悔いや諦観に共感する。

 もう一度だけ最後に。アメリカ人の各層はこの映画、どんなふうにみるのだろうか。

私はみていてつらかった。時間が経つのを忘れた。★5つに近い。

 

f:id:keisuke42001:20180719123157j:plain今年はミニトマトの出来があまりよくない。これは去年のもの。といっても、毎日猫の額の庭で犬と戯れながら丹精込めているのはつれあいの方ですが。