私がみた2018年上半期の映画、極私的絶対評価と寸評。じっくりと触れたいものは別にしてその③

    今朝も明け方から風が強い。締め切ったテラスの外からかすかに風の音が聞こえて目が覚めた。カーテンを開けると庭木がひどく揺れている。

 梅雨明け宣言以降、毎日のように強風が吹いて雨が降る。台風の影響とはいうけれど、この不安定さに梅雨明け宣言はなじまないような気がする。

 

 早朝、境川河畔。このところ鳥の数が減っているように思う。そういう時期なのだろうか。今朝はツバメをみた。親子だ。春に産まれて巣立ちを迎え、少し大人になったくらい。春に母はツバメがしきりに水面を切るように飛んでいたのだが。

 大ぶりのアオサギ。久しぶりに見た。強風の中、いつもならじっと動かず川の中に立っているのだが、今朝は首を振っている。よく見ると口元に15cmほどの魚。黄色味を帯びた斑紋様が見える。色からすると、私にはアユのように見えた。

 気になって今ネットで境川水系調査を見てみたら、大和橋付近でアユがとれるとある。大和橋はここから1㎞もない。

 鳥は魚を呑み込むときに、ウロコがのどに引っかからないように頭の方から呑み込む。どの鳥もそうだ。ペンギンも。アオサギはくちばしが長いから、この「持ち替え」が大変なようだ。

 何度も首を振っているうちに、ようやくアユの頭のほうを長いくちばしでとらえたようで、顔をあげてグイっと(そんな音は聞こえないが)呑み込む。30cmほどもある細いのどをアユのふくらみが下っていくのが見える。

 

 こういうシーンに遭遇すると、得をしたような気分になるが、小動物たちにとってはこの穏やかな二級河川境川も激しい争闘の場、人間だけが風流を気取っている。
同居犬らいと同種の犬を見かける。
 
さて下半期の映画寸評の3回目。★には次のような意味がある。一般の映評を無視した極私的絶対評価、何の参考にもならないかもしれないが。

★★★★★・・・こういう映画は年4~5本かな。おすすめ!
★★★★・・・・アタマとココロを十分に刺激された。
★★★・・・・・最後まで飽きずに映画を楽しめた。ギリギリセーフ!もうひとつ何か      欲しい。
★★・・・・・・なんだかなあ、こんなんでいいのか?後悔寸前!!
★・・・・・・・見たことを忘れてしまいたい。

 
㉚ スリービルボード(2017年・イギリス・116分・原題:Three Billboards Outside・    フランシス・マクドーマンド・監督マーティン・マクドナー)★★★★ 

 アメリミズーリ州の田舎町、娘を殺された母親が、道路に3枚の看板を立て警察に抗議する。それが発端となり、母親と警察、住民の間に大きな溝ができていき、トラブルが頻発していく。犯人捜しという一面もあるが、母親、保安官、保安官の妻、レイシストの警官、住民などとの心理的な葛藤がみもの。ほとんど笑うシーンのない母親役のフランシス・マクドーマンドがいい。勧善懲悪の西部劇とは真逆の人間模様。登場人物にそれぞれ深みがある。

f:id:keisuke42001:20180705145417j:plain



㉛ ブランク13(2017年・日本・70分・高橋一生松岡茉優・監督斎藤工)★★ 

 役者が達者だし、脚本も面白い。でもなんだか独りよがりに見えてしまう。伝えたいと思うことと伝わることの間はけっこう距離がある。70分と短い映画なのに気持ちがつながっていかない、ついていかない感じがした。

㉜ 長江愛の詩(2016年・中国・115分・原題:長江図 Crosscurrent・監督ヤン・チャオ)★★
 既述

㉝ シェイプオブウオーター(2017年・アメリカ・114分・原題:The Shape of  Water・サリー・ホーキンス・監督ギレルモ・デル・トロ)★★★★
 映画のなかにありえない世界をリアルにつくりだしてしまう。そんな映画いくらだってあるのだけれど、これは群を抜いていると思う。資料を見ると1962年冷戦下のアメリカが舞台。政府の極秘の研究所で働く聾者のイライザ(サリー・ホーキンス)が主人公。ある時運び込まれてきた不思議な生き物。イライザはこの生き物と恋に落ちていく。全くほころびの見えない映画に最後まで惹きこまれた。美術と音楽が素晴らしい。

㉞ 苦い銭(2016年・フランス香港・163分・原題:苦銭/BITTER MONEY/ARGENT AMER・監督ワン・ビン)★★★★
 既述

㉟ 軍中楽園(2014年・台湾・133分・原題:軍中樂園 Paradise in Service・監督ニウ・チェンザー)★★★

 この映画、2014年につくられながら今まで日本では公開されなかった。中台の台湾側の前線である金門島につくられた831部隊の特約茶室。いわゆる慰安所。1950年から90年代まで実際にあったという。台湾政府からすれば、世界の人権状況に比して隠しておきたい事実であることから、公開が延びたのかもしれない。その意味でも貴重な映画。

 ただ、物語としては私には平板に思えた。それと、そこで働く女性たちのある意味の自由さ、経営する部隊との良好な関係など、作中の男女の物語が先行するぶん、どれだけ当時の雰囲気を映し出しているのかと気にかかった。やや期待外れ。

㊱ タクシー運転手 約束は海を越えて(2017年・韓国・137分・原題:A Taxi Driver・ソン・ガンホ・監督チャン・フン)★★★★

 光州事件を扱った商業映画『光州5・18』は、武器庫から武器を奪った市民と軍との銃撃戦までを描いているが、本作はそこに至る光州9日間の前半部分が舞台となっている。

 1980年のソウル。一人で子育てをするタクシー運転手マンソプは、海外から初めて光州に入るドイツ人記者ピーターを乗せて光州に入る。お金が欲しいがため他のタクシー運転手から強引に奪った仕事である。

 137分、とにかく飽きさせない。はからずも渦中の人となってしまった市井の人々の、学生への親近感、軍への憎悪、怒り、弱さ、ずるさ、そして闘うことで取り返す人としてのプライドのようなものが、ソン・ガンホの庶民的な風貌とセリフを中心に語られる。

 脇役もいい。記者役のトーマス・クレッチマン、光州の運転手役のユ・ヘジン。 

 80年当時の光州の雰囲気がよく伝わってくる。

 私が初めて韓国に行ったのは88年のことだが、ソウルは発展途上。まだ荒涼としているところがあった。プサンなどの田舎は、日本の昭和30年代のようでこの映画の中の光州に近く、人が住む田舎の穏やか雰囲気があった。画面のあちこちにそれが感じられるぶん、軍の酷薄な動きが対照的に映った。

 国家にとっては恥部ともいえる光州事件を、37年経って商業映画として市民の側から描くことは、それほどたやすいこととは思われない。悲壮感もあるが、ユーモアがあるのがいい。何よりそこに生きていた人たちへの敬意が伝わってくる。

 そういえば2014年の韓国映画『明日へ』もよかった(この邦題にはがっかり。原題は『CART』スーパーマーケットのカートのこと)。こちらは、スーパーのパートタイムの主婦たちが解雇撤回を求めて闘う、実話に基づいた映画だが、声高に理屈や正義を叫ぶのではなく、生活している者の視点から権力に立ち向かう自然な情念が描かれていた。日本では抵抗の歴史や労働運動はなかなか商業映画にならない。ダルデンヌ兄弟の『サンドラの週末』(2014年・ベルギー)などもヨーロッパの労働現場を舞台にしているのだが。

「2018上半期にみた映画」は次回まで。f:id:keisuke42001:20180705145732j:plain

本文とは何の関係もありません。佐野ラーメンの日向屋。かなりいいです。